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左官総覧2004

1.建設業を取巻く社会、経済情勢

左官総覧

日本経済は、長期にわたる景気低迷から緩やかな持ち直しの動きがあり、ようやく底を脱し設備投資は増加傾向にあり、企業収益は、業種間による差はあるものの明るい兆しが見えつつあります。しかしながら私共建設業を取り巻く環境は未だ厳しい状況であります。
平成16年度における我が国の建設投資額(政府建設投資、民間住宅投資、民間非住宅建設投資)は52兆円となる見込みである。昭和59年度以降増加を続け、バブル期の平成2年度から平成8年度までは約80兆円台で推移したのが、平成8年度(82兆8千億円)をピークに減少を続け、ピーク時の62.8%となる。また、国内総生産(GDP)に占める建設投資の割合も、昭和50年代半ばまで概ね20%であったが、その後減少し、平成16年度は概ね10%となる見通しである。
この様に厳しい環境の中で、(1)循環型社会形成推進基本法の導入に伴う、建設リサイクル法の遵守、(2)平成15年7月1日改正建築基準法に伴う、ハウスシック規制、(3)建築ストック増大に伴う、有効活用(耐震補強工事含む)を代表とする建設業に要求される課題はたくさんあります。私達建設業に携わるものは、この様な社会的ニーズに答えられる様、真剣に取り組む必要がある。

2.建築分野における技術的動向

左官総覧

1.建設業を取巻く社会、経済情勢

高強度コンクリート、高降伏点強度鉄筋、高品質管理による施工で鉄筋コンクリート造の100年の耐久性の確保を目指す動きがある。

2)強度、性能の向上

JASS5では設計基準強度が36N/mm2を超え60N/mm2までを適用範囲として高強度コンクリートの仕様を定めている。研究レベルでは150N/mm2を超える超高強度コンクリートの開発が進められ、今後実用化が進むと予想される。 超高強度コンクリートの実用化に伴い100階を越える超高層ビル、大スパン構造のRC・SRC造の施工が可能となり、建物のより一層の高度化・巨大化につながる。

3)施工性の向上

高流動コンクリートは、非常に高い流動性と優れた施工性をもつため、振動、締固めなしに型枠内に充填することができるので工事現場における省力化が図れる。鉄筋工事もカプラー継手の採用により省力化を図り施工性の向上につながっている。


4)躯体工事の施工合理化工法

左官総覧

鉄筋工事に於けるプレハブ鉄筋の現場地組は、RC高層建築によく採用されており、作業能率の向上や高所作業の削減に効果を上げている。また工場先組の中では溶接金網、溶接フープ、溶接スターラップ等多く採用されている。型枠コンクリート工事に於いては、部材全体をプレキャスト化したフルPCa工法と薄肉のプレキャスト板と場所打ちコンクリートによる合成部材となるハーフPCa工法がある。ハーフPCa工法は床板に用いられるものが多く、繰り返し工程が多いRC超高層集合住宅に採用されている。

5)仕上工事の施工合理化工法

仕上工事に関する施工合理化技術は、躯体関連技術に比べると少ないが、乾式化、ユニット化を主体に進められている。外装では、外装カーテンウォールが代表的事例であり、外装の意匠表現や機能の多様化に伴い各種技術が開発され実用化されている。内装では、乾式間仕切壁工法、置床工法が代表的事例であり、工場生産される部分が多く現場作業が大幅に削減され、高い耐火性能、遮音性能を有し、質量の軽量化も図られている。

6)新工法の開発

〈 柱RC梁S構造 〉
高い軸方向力を負担し、耐火性能を必要とする柱はRC造、軽量化、長スパンの確保、施工性からも梁はS造とする混合構造。
〈 CFT構造 〉
コンクリート充填鋼管構造と称されるもので鋼管柱にコンクリートを充填することにより柱の耐力、剛性、変形性能の向上を期待した合成構造。
〈 免震構造 〉
基礎と建物との間に免震装置(積層ゴムアイソレータ)を設置して、地震時に地盤及び基礎の揺れを、建物から絶縁する構造。
〈 制震構造 〉
制震構造は、建物に設置した制震装置により、地震や強風による建物の揺れを制御する構造。


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3.左官業の問題点

1)左官仕事量の激減

建設総投資額の減少(バブル期の62.8%)による要因と、施工の合理化や省力化(外壁のカーテンウォール化、内部仕上工事のユニット化、乾式化)による要因、地価の高騰、都心回帰型によるマンション、事務所ビルの高層化による要因が考えられる。また建設工事費の中に占める左官工事費の割合も激減し、昭和50年代に概ね3%だったものが最近では概ね1%である。

2)施工単価の低減

建設投資の減少に伴い、企業環境が大きく変動を強いられ、再編淘汰の続く総合建設業による極度の施工単価の引き下げや、同業者による過激な受注争いによる施工単価の低減が著しい。

3)生産性の低下

職人さん(徒弟制度の中で厳しく育てられた本物の左官工達)が現在65歳〜60歳に達していること、その次の世代の職人さんが少ないことが大きな要因と考えられる。

4)他業種の左官工事への参入

本来吹付工事は左官工事の仕事であり、モルタル防水も左官工事の仕事であった。珪藻土、漆喰も紛い物により他の業種が施工し業としている。

5)優秀な技能労働者が育たない

左官業に対するイメージが悪く、一人前になるのに時間がかかる(通常モルタル仕事が出来る迄5年)。賃金が苦労の割に安い。

6)コンクリート設計基準強度の上昇に伴う、床仕上工事の精算時のトラブル

コンクリート強度の上昇に伴い水セメント比が極端に小さくなるため、非常に仕上げづらく、Fc=21N/mm2とFc=60N/mm2を比較すると労務費で2.5倍ぐらいアップするが、設計・積算時に施工手間の割増をしておらず出所がない。

4.左官業の今後の展望

1)自然素材の見直し(珪藻土、漆喰、土壁)

平成15年7月1日改正建築基準法に伴い左官材料が告示対象外で規制を受けない建材となり、珪藻土、漆喰、プラスター、土壁の需要が増えることが予想される。またエンドユーザーの健康志向がより一層高まっている。性能を損なうことなく本来の素材の持つ長所を引き出す施工を心掛け需要の拡大を目指したい。

左官総覧
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2)建築ストックの再利用によるリフォーム市場の拡大

東京都190haの敷地に260、000戸のストック、都市公団809、490戸(賃貸住宅)300、985戸(分譲住宅)のストックがあり、より一層のリフォーム需要があると考えられる。左官業がどのように参入できるか方向性・指針を定め、アピールすることが急務である。

3)湿式外断熱工法

この2・3年米国・欧州より湿式外断熱業界メジャーが相次いで日本上陸し営業活動を展開している。但し日本は地的条件が南北に長く各地の温度・湿度が一様ではないので全て満足できるわけではないが、今までの内断熱工法に比べると外断熱工法は(内部結露の防止に伴う、カビ・ダニの発生の抑制、冷暖房費の削減、コンクリートの養生、耐久性の向上etc)多くのメリットを生む。外壁のモルタル・セメント系下地調整塗材は本来左官の職域であり、雑工・多能工の職域ではないはずである。また工法上クールブリッジを発生させない様な施工を要求されるため、キメの細かい施工は前述の職人さんには無理である。ハウスシック問題、ストックの再利用が要求される時代、湿式外断熱工法の需要は、ますます高まるであろう。「コンクリートを挟んで外部は湿式外断熱工法、内部はコンクリート面に吸湿性能を有する、珪藻土・漆喰・土壁塗り」この様な左官独自の壁仕上システムを構築したいものだ。

4)仕上表にない左官工事

国土交通省、都市公団、都の外壁の仕上げ、例えばコンクリート打放しの上複層塗材E吹付とある。コンクリート打放しは型枠工事の範囲でせき板の規格区分とA種、B種、C種のコンクリート面の仕上りの程度表記で、左官工事による目違い調整・上塗りの作業は無いのである。要は積算段階では、金額が計上されないのである。当然各総合建設業が受注し、実行予算を組む際にも項目がないのである。ちなみに750円/m2がないのである。このことが左官工事を不況業種(黒字企業31%)とさせている一つの原因である。飛鳥の時代より建築を支えてきた業種であり、建築工事共通仕様書15章にある左官工事である。仕上げ表への明記を御願いしたい。

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